建設業の再雇用・継続雇用制度、50代がすべき交渉と準備
- 65歳までの雇用確保義務は2025年4月に経過措置が終了し、希望者全員が対象になった点が実務上の大きな変化です。
- 建設業の再雇用は現場常駐型・内勤サポート型・嘱託専門職型の3型に分かれ、給与目安は現役時の6〜8割程度です。
- 70歳までの就業確保は努力義務のため、65歳以降の継続可否は契約更新時に個別確認が欠かせません。
「定年後も雇ってもらえるのはありがたいんですが、給料が半分になるって本当ですか」——継続雇用の面談を控えた50代の方から、こういう質問を受けることがあります。
結論からお伝えすると、65歳までの雇用確保は企業に義務がありますが、給与や業務内容が現役時と同じである保証はありません。個人的には、この「義務があること」と「条件が守られるわけではないこと」の間にある落差を、事前にどれだけ理解して面談に臨めるかで、その後の数年間の働きやすさがかなり変わってくると考えています。この記事では、制度の骨格、建設業でよくある再雇用の型、給与の見方、そして面談前にやっておくべき実務手順の順に整理していきます。
0. まずは「義務」と「条件」を分けて考える
再雇用や継続雇用の話をするとき、皆さんが最初にぶつかる壁は「会社が雇ってくれるかどうか」ではなく、「どういう条件で雇われるのか」だと僕は感じています。役職定年後のキャリア再設計や監理技術者としての市場価値の記事では、50代が「どう動くか」を中心に書きましたが、この記事は少し違う角度です。定年を挟んで会社に残る、あるいは残らせてもらう場面での、制度の理解と交渉の準備に絞ってお話しします。会社を出て独立や一人親方を選ぶ道と比べると、再雇用は「会社に残る」という選択であり、そのぶん会社側の制度や運用ルールへの理解が武器になる、という点が特徴だと思います。
1. 制度の骨格 — 65歳までの義務と70歳までの努力義務
高年齢者雇用安定法では、企業に対して次の3つのいずれかによる65歳までの雇用確保措置を義務付けています。①定年制の廃止、②定年年齢を65歳まで引き上げる、③65歳までの継続雇用制度を導入する、のいずれかです。多くの建設会社は③の継続雇用制度、いわゆる再雇用や嘱託契約への切り替えという形を選んでいる、というのが僕の体感値です。
ここで実務上大きいのが、2025年4月に一つの区切りが来ている点です。以前は労使協定を結ぶことで、継続雇用の対象者を会社側が一定の基準で限定できる経過措置がありました。この経過措置は2025年4月1日までに終了しており、現在は基本的に希望者全員が65歳までの継続雇用の対象になっています(出典:厚生労働省・高年齢者雇用安定法)。つまり「会社に選ばれるかどうか」ではなく「希望すれば原則対象になる」という段階に、制度としては進んでいるということです。
もう一つ知っておいていただきたいのが、2021年4月から努力義務化された70歳までの高年齢者就業確保措置です。これは義務ではなく努力義務であり、雇用継続だけでなく、業務委託契約や社会貢献事業への従事といった雇用以外の形も選択肢として認められています。厚生労働省が毎年実施している「高年齢者雇用状況等報告」でも、65歳までの雇用確保措置を講じている企業の割合はほぼ全ての企業に広がっている一方、66歳以上働ける制度を持つ企業の割合は年々増えてはいるものの65歳までの措置ほど普及していない、という傾向が繰り返し報告されています。この差が、65歳の壁と70歳の壁の重みの違いだと理解しておくと、面談での話の受け止め方が変わってくると思います。
2. 建設業の再雇用でよくある3つの型
建設業の現場で実際に見てきた再雇用のパターンは、大きく3つに分けられると僕は考えています。1つ目は「現場常駐型」で、そのまま現場に残り施工管理や安全管理の業務を継続する形です。体力面の負荷は現役時とほとんど変わらない一方、給与は一定割合下がることが多い印象です。2つ目は「内勤サポート型」で、本社や支店に移り、安全書類の整備や見積りの補助、若手への技術的なアドバイスなど、体力負荷の低い業務に軸を移す形です。3つ目は「嘱託専門職型」で、監理技術者や主任技術者としての名義配置や技術指導に特化し、勤務日数が週3〜4日程度に減ることが多いパターンです。
| 型 | 主な業務 | 体力負荷 | 勤務日数の目安 |
|---|---|---|---|
| 現場常駐型 | 施工管理・安全管理を継続 | 現役時と同程度 | 週5日が中心 |
| 内勤サポート型 | 書類整備・見積補助・後進指導 | 低め | 週4〜5日 |
| 嘱託専門職型 | 名義配置・技術指導・監理業務 | 低め | 週3〜4日 |
どの型が良い悪いという話ではなく、自分の体力や意欲、資格の使い方に対して、どの型が合っているかを面談前に考えておくことが大切だと思います。個人的には、現場に残りたい気持ちが強い方ほど、内勤サポート型を提示されたときに落胆しやすい印象があるので、事前に3つの型があることを知っておくだけでも心の準備になると考えています。
3. 給与・待遇の変化を「比較と定義」で見る
給与の話をするとき、単に「何割下がる」という数字だけを見るのは危険だと僕は思っています。まず定義を確認してください。基本給ベースでの減額なのか、諸手当も含めた総支給額での比較なのか、ボーナスや退職金の扱いはどうなるのか、ここが曖昧なまま「6割になる」という言葉だけが先に伝わると、実際の生活設計とずれてしまいます。
僕がこれまで相談を受けてきた範囲の目安値で言うと、ゼネコン系の会社では再雇用後の月給が現役時の6〜7割程度になるケースが多い印象です。一方、人手不足が強い中小の専門工事会社では、資格を持つ人材への需要が高いこともあり、現役時の8割前後を維持するケースも見られます。これはあくまで独自ガイドとして僕が見聞きしてきた範囲の体感値であり、公的な調査結果ではありません。会社の規模や業態、そして本人が持つ資格(監理技術者資格の有無など)によって差が出る、という比較の視点を持っておくことが、数字を正しく受け止めるうえで重要だと考えています。
雇用形態が正社員から契約社員や嘱託に変わる場合、ボーナスの算定方法や退職金の取り扱いも変わることが多いです。特に退職金は、定年時にいったん精算されるのか、継続雇用期間も含めて再計算されるのか、会社ごとに規程が異なるため、ここも必ず確認していただきたい項目です。
4. 交渉で確認すべき論点 — 面談前のチェックリスト
継続雇用の面談は、多くの会社で「提示された条件に合意するかどうか」を確認する場になりがちです。ですが、事前に論点を整理しておくことで、その場で聞き逃す、あるいは聞きそびれる、という事態をかなり減らせると思います。僕が皆さんにお勧めしているのは、次のような項目をメモにして面談に持って行くことです。
- 業務内容は現役時と同じか、それとも役割が変わるか(前章の3つの型のどれに近いか)
- 給与の算定基準は基本給ベースか、総支給額の一律減額か
- 勤務日数・勤務時間の変化(週4日制への移行があるかどうか)
- 監理技術者や主任技術者としての名義配置は継続するか、資格手当は残るか
- 契約期間と更新サイクル、更新の判断基準
- 65歳以降(70歳までの措置)の見通しが会社としてあるかどうか
この一覧は、施工管理技士や監理技術者の資格を持つ方にとって特に重要です。名義配置が継続するかどうかで、会社側から見た自分の価値の位置づけがはっきりするからです。逆に名義配置がなくなり、純粋な作業補助やサポート業務に切り替わる場合は、給与の下がり方も大きくなる傾向がある、というのが僕の体感値です。
5. 面談までにやっておく実務手順 — 今日からできる5つ
制度の理解ができたら、次は面談までの準備です。僕がお勧めしている手順を、実際に今日から動ける形で並べます。
- 自分の資格(施工管理技士、監理技術者資格者証の有無など)と実務経験を一覧にまとめる。口頭で説明するより、書面にしておくと面談での説得力が増します。
- 会社の継続雇用規程を人事や総務に依頼して実際に読む。多くの会社では規程集や就業規則に条文があるので、口頭説明だけでなく現物を確認してください。
- 現在の給与・手当の内訳を書き出し、再雇用後の想定額と並べた比較表を自分で作る。前章の「基本給ベースか総支給額か」を意識して作ると、面談での質問がぶれません。
- 前章のチェックリストをもとに、面談で確認する項目をメモにする。その場で全部覚えて話すのは難しいので、紙やスマホのメモに残しておくことをお勧めします。
- 社内の再雇用だけでなく、技術顧問や嘱託としての社外の選択肢についても、並行して情報だけは集めておく。社内条件を検討する際の比較の軸になります。
以前、ある地方の中堅ゼネコンで施工管理をされていた方から聞いた話ですが、面談の場で会社側から提示された条件をその場で受け入れてしまい、後から「監理技術者としての名義配置がなくなっていたことに気づかなかった」と話していたことがあります。この方の場合、資格手当がなくなったことで、想定より年収の下がり方が大きくなってしまったそうです。こうした事例を踏まえると、面談前の準備がいかに大切かがよく分かると僕は思っています。
6. よくある失敗とその対処
再雇用や継続雇用の面談で、僕がよく見かける失敗パターンを3つ挙げます。1つ目は、面談当日まで何も準備せず、提示された条件をそのまま受け入れてしまうことです。対処としては、前章の実務手順にある比較表とチェックリストを、面談の1〜2週間前には作り始めておくことをお勧めします。
2つ目は、給与の数字だけに注目してしまい、業務内容の変化を見落とすことです。給与が現役時の8割で維持されていても、体力的な負荷が変わらないまま業務範囲が縮小されている場合、割に合わないと後から感じる方もいます。給与と業務内容は必ずセットで確認する、という姿勢が大事だと考えています。
3つ目は、65歳以降の見通しを確認しないまま契約を結んでしまうことです。70歳までの就業確保措置はあくまで努力義務なので、会社によって対応がまちまちです。65歳の契約更新のタイミングで、70歳までの継続の可能性があるかどうかを、遠慮せずに質問しておくことを僕はお勧めしています。比喩で言うと、これは登山でいう「次の山小屋までの距離を先に確認しておく」ようなものだと思います。今の一歩だけでなく、次の区切りまでの見通しを持っておくことで、心の余裕がかなり変わってきます。
7. (結論) 制度を知ってから、条件を選ぶ
65歳までの雇用確保は義務であり、2025年4月からは希望者全員が対象になりました。ですが、条件の内容までは制度が保証してくれません。建設業でよくある3つの型のどれに近づくのか、給与は何を基準に何割下がるのか、名義配置や資格手当は継続するのか、そして65歳以降の見通しはどうなのか。これらを面談前に整理しておくことで、僕は交渉の場に立つ姿勢そのものが変わると考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。制度を正しく理解したうえで、自分に合った条件を選び取っていく——そこから先のキャリアの質が決まってくると思います。それでは今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 建設業でも65歳まで再雇用してもらえるのは義務ですか?
はい、高年齢者雇用安定法により企業には65歳までの雇用確保措置(定年制廃止・定年延長・継続雇用制度のいずれか)を講じる義務があります。2025年4月には対象者を限定できた経過措置が終了し、希望者全員が対象になりました。ただし業務内容や給与が現役時と同一である保証はなく、契約時に条件を個別に確認する必要があると考えています。
Q. 再雇用後の給料はどれくらい下がりますか?
僕がこれまでの相談で聞いてきた範囲の目安値では、ゼネコン系で現役時の6〜7割程度、人手不足が強い中小の専門工事会社では8割前後を維持するケースも見られます。あくまで独自ガイドの目安値であり、業態や役割の変化(現場常駐か内勤かなど)によって差が出るため、一律の相場と考えない方が安全だと思います。
Q. 70歳まで働き続けることはできますか?
70歳までの高年齢者就業確保措置は2021年4月から努力義務化されていますが、義務ではありません。企業によっては業務委託契約への切り替えなど雇用以外の形を選ぶ場合もあるため、65歳の契約更新時に70歳までの見通しを個別に確認しておくことを僕はお勧めしています。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。